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青森地方裁判所 平成10年(ワ)307号 判決 1999年5月19日

主文

一  乙事件被告らは、乙事件原告らそれぞれに対し、各自金五〇万円及びこれに対する平成九年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告の請求及び乙事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件について生じた部分は、甲事件原告の負担とし、乙事件について生じた部分は、これを三分し、その二を乙事件原告らの負担とし、その余を乙事件被告らの負担とする。

四  乙事件原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  平成九年五月三〇日に開催された甲事件被告の定時総会における柴田峯生が同被告の会長に当選した選挙は無効であることを確認する。(甲事件)

二  乙事件被告らは、乙事件原告らそれぞれに対し、各自三〇〇万円及びこれに対する平成九年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(乙事件)

第二  事案の概要

本件は、平成九年五月三〇日に開催された甲事件被告・乙事件被告青森県行政書士会(以下「被告行政書士会」という。)の定時総会(以下「本件定時総会」という。)における会長選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補した甲事件原告・乙事件原告鳴井勝敏(以下「原告鳴井」という。)が、右選挙において柴田峯生(以下「柴田」という。)が会長に当選した手続に瑕疵があるとして、被告行政書士会に対し、本件選挙の無効の確認を求める(甲事件)とともに、正規の手続により選挙を受ける権利を本件選挙の当時被告行政書士会の会長をしていた乙事件被告中村登(以下「被告中村」という。)に侵害されたとして、被告行政書士会及び被告中村に対し、不法行為に基づく損害賠償(被告行政書士会に対しては行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づく)を請求し(乙事件)、乙事件原告大川敬(以下「原告大川」という。)が、被告行政書士会及び被告中村に対し、本件選挙における選挙権等を被告中村に侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償(被告行政書士会に対しては行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づく)を請求している(乙事件)事案である(以下、特に年を記載していない場合は、平成九年を指す。)。

一  争いのない事実等

1 被告行政書士会は、行政書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として、行政書士法一五条一項に基づいて設立された法人であり、青森県の区域に事務所を有する行政書士を会員とし、その会則(青森県行政書士会会則(以下「会則」という。))は、青森県知事の認可を受けている。

2 被告行政書士会の本件選挙前の役員は、会長が被告中村、副会長が柴田、毛内初雄及び清水信敏であり、ほかに理事等がいた。

3 被告行政書士会には、会則九一条に基づいて青森県行政書士会中弘支部(以下「中弘支部」という。)外八支部が設けられており、中弘支部は、支部の運営等について会則九三条に基づいて青森県行政書士会中弘支部規則(以下「支部規則」という。)を定めている。

4 中弘支部の五月七日に開催された定時総会(以下「本件支部総会」という。)前の役員は、支部長が原告大川、副支部長が毛内初雄及び尾張幸男であり、ほかに理事等がいた。

5 本件選挙には、被告行政書士会の会員である原告鳴井及び柴田が立候補した(争いがない。)。

6 五月七日、中弘支部の本件支部総会が開催された(争いがない。)。

7 五月二五日、尾張幸男、毛内初雄、宮川静昌及び高谷正夫が発起人代表として招集した中弘支部の臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)が開催された(争いがない。)。

8 五月三〇日、被告行政書士会の本件定時総会が開催されて、本件選挙が実施され、原告鳴井が八票、柴田が四五票を獲得して、柴田が被告行政書士会の会長に当選した。

二  争点

1 中弘支部の本件支部総会における代議員の選任の有効性

2 中弘支部の本件臨時総会及び同総会における代議員の選任の有効性

3 本件選挙の瑕疵の有無及び瑕疵がある場合の本件選挙の有効性

4 本件選挙において原告大川の選挙権を行使させなかったこと等についての被告らの不法行為責任の有無

5 本件選挙に瑕疵がある場合に本件選挙において原告鳴井が正規の手続により選挙を受けることができなかったことについての被告らの不法行為責任の有無

三  争点に対する当事者の主張

1 争点1(中弘支部の本件支部総会における代議員の選任の有効性)について

(一) 原告らの主張

(1) 五月七日に開催された中弘支部の本件支部総会において、役員として、支部長に原告大川、副支部長に齋藤万吉外一名等が選任され、また、本件定時総会に出席する代議員として原告大川外六名が選任された。

(2) 被告らは、新役員が総会を開催して代議員を選任する前に役員会を開催すべきであった旨主張しているが、支部規則には、総会を開催する前に役員会を開催しなければならない旨の規定はなく、被告らの右主張は失当である。

(3) また、被告らは、新役員を選任する際の議長を支部長ではない相馬昌一(以下「相馬」という。)が行っていた点を問題とするが、支部規則一三条二項の総会の議長は支部長とする旨の規定は、絶対的なものではなく、議事運営上必要で、総会において了解が得られるならば、支部長以外の者を議長に選任することは何ら差し支えのないところであり、本件支部総会において役員を選任する際の議長として総会の総意により相馬が選任されているのであるから、相馬が議長を務めることは何ら問題がなく、被告らの右指摘は当たらない。

(4) したがって、本件支部総会における代議員の選任は、何らの瑕疵もなく有効である。

(二) 被告らの主張

(1) 中弘支部の本件支部総会において、支部長等の役員が総辞職した後、新役員が選任され、代議員七名も選任されたところ、新役員が総会を開催するためには、事前に改めて役員会を開催し、定時総会に付議する事項を決め、その後に改めて総会を開催し、代議員七名を選任すべきであった。

(2) また、支部規則には、総会の議長は支部長とする旨の規定がある(一三条二項)が、新役員を選任する際の議長は支部長ではない相馬が行っており、この点でも本件支部総会の手続に瑕疵がある。

(3) したがって、右代議員七名の選任は、手続上大きな瑕疵があり、無効である。

2 争点2(中弘支部の本件臨時総会及び同総会における代議員の選任の有効性)について

(一) 原告らの主張

(1) 尾張幸男外三名は、発起人代表と称し、五月七日の本件支部総会における役員及び代議員の選任決議は無効であるとして、同月二五日に本件臨時総会を招集し、本件支部総会において選任された役員及び代議員をすべて解任する旨、中弘支部の支部長として高谷正夫、代議員として佐々木英樹外六名を選任する旨決議した。

(2) 被告らは、中弘支部の副支部長であった尾張幸男に総会の招集権限があった旨主張しているが、尾張幸男は、本件支部総会で副支部長を辞職しており、本件臨時総会を招集する際に副支部長の地位になかったのであるから、被告らの右主張は失当である。

(3) また、副支部長が支部長の総会招集権を代理行使できるのは、支部長に事故があった場合又は支部長が欠員になった場合である(支部規則八条)が、本件臨時総会の招集の当時、中弘支部においては、支部長として原告大川がおり、右のような場合ではなかった。被告らは、本件臨時総会には支部長の不信任案が上程されたので、支部長が総会の招集権者から除斥される旨主張するが、支部規則には、そのような規定はどこにもない。したがって、本件臨時総会の招集の際、副支部長は、支部長の総会招集権を代理行使することはできなかった。

(4) 以上からすると、本件臨時総会は、尾張幸男らが何らの招集権限がないのにもかかわらず招集した違法なものであり、本件臨時総会での代議員等の選任決議は不存在である。

(二) 被告らの主張

(1) 本件支部総会終了後、中弘支部の会員から支部長である原告大川に対し、本件支部総会には問題があるので臨時総会を開催するように申入れをしたが、臨時総会が開催されなかったため、尾張幸男外三名が発起人代表となり、本件臨時総会を開催した。

(2) 本件臨時総会は、本件支部総会の前に中弘支部の副支部長であった尾張幸男が招集したものであるところ、本件支部総会で選任された新役員は暫定役員であるから本件支部総会終了後は役員の地位にはないこと、役員が辞職した場合に新たな役員が選任されるまでは辞職した役員が役員としての職務を行うこと、支部規則八条に副支部長が支部長の職務を代理する旨の規定があること、また、本件臨時総会の案件として支部長である原告大川についての支部長不信任案が出されており、原告大川は総会の招集権者から除斥されることから、本件支部総会の前に副支部長であった尾張幸男に本件臨時総会の招集権限があったものである。

(3) したがって、本件臨時総会は有効に成立しており、本件臨時総会での代議員等の選任決議は、有効である。

3 争点3(本件選挙の瑕疵の有無及び瑕疵がある場合の本件選挙の有効性)について

(一) 原告らの主張

(1) 五月三〇日、本件定時総会が開催され、被告らは、中弘支部の代議員として、本件支部総会において代議員として選任された原告大川外六名の出席を拒否し、本件臨時総会において違法に選任された佐々木英樹外六名の出席を認めた。

(2) 原告鳴井は、「事務局で閲覧した中弘支部の代議員名簿と、代議員席に着いているメンバーが違っている。本日の総会の成立要件を欠いているので、本件定時総会で決議すべき事項は、決議すべきでない。」と動議を申し出たところ、他支部の代議員から、「中弘支部の問題は本件定時総会において審議すべき事項ではないから、双方とも退場させて選挙を実施すべきである。」との反対意見があり、結局、双方とも退場させられることとなった。

(3) 中弘支部の代議員の退場後、その余の出席代議員五三名により本件選挙が実施された結果、原告鳴井が八票、柴田が四五票を獲得し、柴田が被告行政書士会の会長に当選した。

(4) 被告らは、中弘支部の代議員である原告大川外六名の選挙権行使を不当に妨害したものであり、また、原告鳴井の動議を無視して本件選挙を強行したものであり、本件選挙の手続的瑕疵は極めて大きく、本件選挙は無効である。

(二) 被告らの主張

(1) 本件支部総会で選任された代議員は本件臨時総会で解任され、新たな代議員が選任されたため、被告行政書士会は、本件臨時総会で新たに選任された代議員に対し、本件定時総会の開催を通知した。

(2) 本件定時総会においては、代議員数六九名に対し、本人出席六〇名、委任状出席八名、合計六八名が出席し、定足数である代議員の三分の一以上が出席したので、総会は有効に成立した。なお、本件定時総会においては、中弘支部の代議員について議論がされ、中弘支部の代議員七名には総会での議決権や選挙権を認めないでオブザーバー参加することを決定したが、中弘支部の代議員七名を除いても、本件定時総会は、定足数を満たしている。

(3) 被告行政書士会の役員の選任方法は、会則二九条二項により、規則で定めることとされており、これに基づいて青森県行政書士会役員等選任規則(以下「選任規則」という。)が定められているところ、選任規則には、被告行政書士会の会長は選挙により選任する旨規定されている(三条一号)。また、選任規則を受けて選挙管理委員会の業務を公正、円滑に実施するための手続等を定めるため、青森県行政書士会役員等選任規則施行細則(以下「施行細則」という。)が定められている。

(4) 本件選挙は、本件定時総会において、選挙管理委員会の管理下で厳正に執行され、投票総数五三票、有効投票数五三票で、柴田が四五票、原告鳴井が八票を獲得し、柴田が被告行政書士会の会長に当選した。

(5) 本件選挙は、右のとおり、何ら瑕疵はなく、有効に成立しているものである。

4 争点4(本件選挙において原告大川の選挙権を行使させなかったこと等についての被告らの不法行為責任の有無)について

(一) 原告大川の主張

(1) 被告行政書士会の本件選挙実施前の理事であった被告中村は、本件臨時総会における原告大川の代議員の解任決議を有効と考え、原告大川の本件定時総会での議決権や選挙権を認めなかった。

(2) 被告中村は、原告大川から何らの事情聴取もせずに、原告大川の本件定時総会における議決権や選挙権を奪ったことについて、故意又は過失がある。

(3) 被告行政書士会は、行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づいて、理事である被告中村と連帯して、原告大川に対し、不法行為責任を負う。

(4) 原告大川が本件定時総会において代議員としての議決権を奪われ、特に、その支持する原告鳴井への本件選挙における選挙権を奪われたことによる精神的苦痛は大きく、これを慰謝するためには、三〇〇万円を下らない。

(二) 被告らの主張

(1) 原告大川は、同原告についての本件支部総会での代議員の選任は前記1(二)のとおり瑕疵があり無効であり、また、本件臨時総会において代議員を解任されているので、本件定時総会における議決権や選挙権は有しない。

(2) したがって、本件定時総会において原告大川が議決権や選挙権を行使できなかったことについて、被告らには不法行為責任はない。

5 争点5(本件選挙に瑕疵がある場合に本件選挙において原告鳴井が正規の手続により選挙を受けることができなかったことについて被告らの不法行為責任の有無)について

(一) 原告鳴井の主張

(1) 原告鳴井は、本件選挙に立候補したところ、原告鳴井に対する支持を表明していた中弘支部の代議員の選挙権が奪われた状態で、本件選挙が行われた。

(2) 立候補者は、正規の手続により選挙を受ける権利を有するところ、原告鳴井は、有力な支持者である代議員の選挙権が奪われ、いわば選挙妨害を受けた状態で選挙に臨まざるを得ず、正規の手続により選挙を受ける権利を被告中村の故意又は過失により侵害された。

(3) 被告行政書士会は、行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づいて、理事である被告中村と連帯して、原告鳴井に対し、不法行為責任を負う。

(4) 原告鳴井の正規の手続により選挙を受ける権利を侵害されたことによる精神的苦痛は大きく、これを慰謝するためには、三〇〇万円を下らない。

(二) 被告らの主張

(1) 本件支部総会での代議員の選任は前記1(二)のとおり瑕疵があり無効であり、また、本件臨時総会において本件支部総会で選任された代議員は解任されているので、本件選挙において右代議員が選挙権を行使しなかったことについて、被告中村には、何らの落ち度もない。

(2) したがって、右の点について、被告らには不法行為責任はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(中弘支部の本件支部総会における代議員の選任の有効性)について

1 前記争いのない事実等に加え、《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 被告行政書士会の総会は、代議員で組織され(会則三六条)、代議員は、総会において一個の議決権を有する(会則四一条)ところ、代議員は、毎年四月一日現在の支部全会員数に基づき総会前に支部会員が選任するものとされ(会則四八条)、代議員の数は、支部会員五名に対し一名の割合で選任するものとされ(会則四九条)、平成九年四月一日の時点において、被告行政書士会の会員数は三二六名、同被告の代議員の総数は六九名で、中弘支部の会員数は三一名、同支部の代議員の数は七名であった。

(二) 支部規則では、支部長、副支部長等の役員は、総会で選任する旨規定され(七条)、総会の議長は支部長とする旨規定され(一三条二項)、被告行政書士会に出席する代議員は支部において選任する旨規定されている(二三条)が、代議員の選任方法については、特に規定されていない。

(三) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、四月二日、中弘支部等の被告行政書士会の支部の支部長に対し、被告行政書士会の定時総会を五月三〇日に予定しているため、同月一五日までに支部総会を終了し、代議員の氏名を報告するように文書により依頼した。

(四) 四月一六日、中弘支部の役員会が開催され、監事の三上寿を除くその余の役員が出席した。右役員会においては、五月七日に中弘支部の定時総会(本件支部総会)を開催する旨、また、平成八年度収支決算、平成九年度事業計画案審議、平成九年度予算審議、支部役員改選、代議員選任の各事項を右総会における提出議案とする旨決議された。

(五) 原告大川は、中弘支部の支部長として、四月二〇日、中弘支部の会員に対し、五月七日に本件支部総会を開催して支部の役員改選や代議員選任等を議案とする旨記載された支部総会開催通知を送付した。

(六) 中弘支部においては、平成七年ころから、会員の一部の者が中弘車庫証明申請合同事務所を設立して車庫証明申請業務を事実上独占している等として、その在り方が問題となっており、支部長の原告大川が被告行政書士会に指導を要請する等していた。中弘車庫証明申請合同事務所の平成八年一〇月時点の構成員は、毛内初雄、石郷岡良治、佐々木英樹、尾張幸男、宮川静昌、宮川りょう、原告大川、篠崎羊子の八名であった。なお、中弘車庫証明合同事務所は、平成八年一〇月ころに解散したが、その後も、車庫証明申請業務を一部の会員が事実上独占している状況は変わらず、車庫証明申請業務の在り方が問題となっていた。

(七) 五月七日、本件支部総会が開催され、中弘支部の会員三一名のうち、本人出席二〇名、委任状出席八名、合計三〇名が出席した。

本件支部総会において、支部長の原告大川が議長席に着き、司会者に副支部長の尾張幸男を指名して開会を宣言したところ、会員の佐々木英樹が、これまでの中弘支部の支部運営に問題があり役員総辞職して新役員を選任の上総会を行うように求め、その提案に会員の毛内初雄及び高谷正夫が同調して、議事進行が不可能となった。そこで、本件支部総会に出席していた日本行政書士会青森県政治連盟顧問の相馬から役員総辞職の勧告があり、中弘支部の全役員が辞職した。

そして、総会の総意により相馬が議長となり、本件支部総会の議案である任期満了による新たな役員を選任することとし、議長である相馬が選任方法を諮ったところ、満場一致により投票で選任することが決定された。そこで、支部長等の役員の投票を行ったところ、支部長に原告大川、副支部長に齋藤万吉及び木村浅太郎が選任され、ほかに理事等が選任された。議長である相馬は選任された役員を紹介し、支部長等に選任された原告大川等は就任を承諾した。なお、その際、議長である相馬から右役員は暫定役員である等の説明はなかったし、出席者の中からもそのような意見は出なかった。

そこで、新たに支部長となった原告大川は、議長席に着いて議事を再開し、会務報告や監査報告の了承を得、平成九年度予算案の審議等をした後、代議員の選任について本件支部総会で選任された役員の中から定員の七名を選任したい旨提案したが、出席者から異議が出なかったため、鎌田敞、対馬寿二、齋藤万吉、木村浅太郎、矢島勝美、松橋忠男及び原告大川の七名を指名して出席者に賛否を確認したところ、出席者から異議が出なかったため、右の七名を代議員として選任した。

(八) 代議員の選任方法については、従来から、中弘支部の総会において、議長が指名して出席者に賛否を確認する方法によっていた。

2 右認定の事実によると、中弘支部における代議員の選任について、支部規則には、代議員は支部において選任する旨規定されているだけで、その選任方法については特に規定されておらず、支部の合理的な運営に委ねられていると解されるところ、代議員の選任方法については、従来から、中弘支部の総会において、議長が指名して出席者に賛否を確認する方法によっていたものであり、本件支部総会における代議員の選任も、同総会において支部長に選任された原告大川が、議長として七名の代議員候補者を指名し、出席者に賛否を確認して異議がなかったことから、七名の代議員を選任したものであり、右代議員の選任は、何らの瑕疵もなく有効であると解される。

この点、被告らは、本件支部総会において、支部長等の役員が総辞職した後、新役員が選任されたところ、新役員が総会を開催するためには、事前に改めて役員会を開催する必要があったが、本件では改めて役員会が開催されていないから、本件支部総会における代議員の選任は手続上大きな瑕疵があり無効である旨主張する。

しかしながら、支部規則においては、総会の前に役員会を開催しなければならない旨の規定はない上、中弘支部において支部総会の前に役員会を開催する慣行があったと認めるに足りる証拠もなく、また、仮に中弘支部において支部総会の前に役員会を開催する慣行があったとしても、本件支部総会においては、代議員の選任があらかじめ議案として予定されていたのであり、新役員全員が本件支部総会の場におり、代議員の選任に異議を述べなかったのであるから、本件支部総会において代議員を選任するに当たり、改めて役員会を開催しなかったとしても、手続上の瑕疵は実質的にはないと考えられ(新役員の全員が代議員の選任に異議を述べなかったのであるから、黙示の役員会が開催されたと解することも可能であるし、役員会を開催しないことに承諾があったと解することも可能である。)、事前に役員会を開催しなかったことにより本件支部総会における代議員の選任が無効となるものではないと解されるから、被告らの右主張は採用できない。

また、被告らは、支部規則には、総会の議長は支部長とする旨の規定がある(一三条二項)が、新役員を選任する際の議長は支部長ではない相馬が行っており、この点でも本件支部総会の手続に瑕疵がある旨主張する。

確かに、支部規則には、総会の議長は支部長とする旨規定されているが、右規定は通常総会の議長は支部長がする旨注意的に規定されたものと解され、総会で別に議長を決めることも可能であると解されるところ、右認定の事実によると、本件支部総会においては新役員を選任する際に総会の総意により相馬が議長となったのであるから、相馬が新役員を選任する際の議長をしたことに問題はなく、被告らの右主張は採用できない。

したがって、本件支部総会における代議員の選任は、何らの瑕疵もなく有効であると解される。

二  争点2 (中弘支部の本件臨時総会及び同総会における代議員の選任の有効性)について

1 前記争いのない事実等に加え、《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 高谷正夫は、五月二〇日、被告行政書士会の会長である被告中村に対し、本件支部総会における役員の選任は公正を欠くものである旨の申告をした。

(二) 高谷正夫は、五月二一日、被告行政書士会の会長である被告中村及び副会長である柴田等に対し、本件支部総会における議事運営及び役員の選任が不正に行われた旨、支部総会開催命令を早急に発令してもらいたい旨等を記載した佐々木英樹外八名連名の上申書を添付した請願書を提出した。

(三) 尾張幸男、毛内初雄、宮川静昌及び高谷正夫は、発起人代表として、五月二二日、中弘支部の会員に対し、本件臨時総会の招集を通知した。

(四) 右尾張幸男外三名は、発起人代表として、五月二三日、中弘支部の会員に対し、本件臨時総会を開催する趣意書を送付した。

(五) 五月二五日、本件臨時総会が開催され、高谷正夫外一一名の会員が出席した。

本件臨時総会において、原告大川の支部長不信任案が可決され、代議員として佐々木英樹、高谷芳男、宮川静昌、高谷正夫、宮川りょう、石郷岡良治及び石田隆章の七名が選任され、支部長として高谷正夫が選任され、本件定時総会で選任された全役員の解任が決議された。

(六) 支部規則には、中弘支部の総会の招集について、定時総会は毎回会計年度終了後、被告行政書士会の定時総会以前に、臨時総会は必要がある場合に随時、支部長が招集する旨規定され(一四条一項)、また、支部長及び副支部長の権限について、支部長は支部を代表し、副支部長は支部長を補佐し、支部長に事故があるとき又は欠員のときは、その職務を代理し又は代行する旨規定されている(八条)が、支部長の除斥については規定されていない。

2 右認定の事実によると、本件臨時総会は、中弘支部の支部長である原告大川が招集したものではなく、尾張幸男等が発起人代表として招集したものであるが、中弘支部の臨時総会の招集権限は、支部長に認められているものである。

被告らは、本件臨時総会は、本件支部総会の前に中弘支部の副支部長であった尾張幸男が招集したものであり、本件支部総会で選任された新役員は暫定役員であるから本件支部総会終了後は役員の地位にはないこと、役員が辞職した場合に新たな役員が選任されるまでは辞職した役員が役員としての職務を行うこと、支部規則八条に副支部長が支部長の職務を代理する旨の規定があること、また、本件臨時総会の案件として支部長である原告大川についての支部長不信任案が出されており、原告大川は総会の招集権者から除斥されることから、本件支部総会の前に副支部長であった尾張幸男に本件臨時総会の招集権限があった旨主張する。

しかしながら、前記一1によると、尾張幸男は本件支部総会において中弘支部の副支部長を辞職して、本件支部総会において中弘支部の副支部長として外の者が選任されており、その者は、任期満了による新たな役員であり、暫定役員ではなかったのであるから、尾張幸男は本件支部総会終了後は中弘支部の副支部長の地位にはない上、支部規則には、支部長に事故があるとき又は欠員のときは、副支部長は支部長の職務を代理し又は代行する旨規定されている(八条)が、支部長の除斥については規定されておらず、本件臨時総会の当時、支部長である原告大川に事故もなく、支部長の欠員もなかったことから、副支部長が支部長の職務を代理又は代行する状況にもなく、被告らの右主張は採用できない。

したがって、本件臨時総会は、尾張幸男等が何らの招集権限がないにもかかわらず招集した有志による集会であり、同総会でされた原告大川の支部長不信任案の可決や代議員の選任、高谷正夫の支部長選任等は無効であるといわざるを得ない。

三  争点3 (本件選挙の瑕疵の有無及び瑕疵がある場合の本件選挙の有効性)について

1 前記争いのない事実等に加え、《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 被告行政書士会の会長は、総会において、選挙により選任することとされており(会則二九条一項、選任規則三条一号)、会長の選挙の実施方法については、選任規則及び施行細則に具体的に規定されており、会長の選挙は、選挙管理委員会により管理・執行され(選任規則六条)、会長の選挙において選挙権を行使できる者は、現に当該総会に出席している代議員とされ、委任状を提出した代議員には選挙権が認められないとされている(選任規則四条)。

(二) 原告鳴井及び柴田は、五月六日ころ、本件選挙の立候補の届出を行い、以降、同月三〇日の本件選挙の実施日まで、電話等による選挙運動を実施した。

(三) 原告大川は、本件支部総会の結果を受けて、中弘支部の支部長として、五月一二日、被告行政書士会の会長である被告中村に対し、中弘支部の代議員として鎌田敞外六名が選任された旨及び本件支部総会で選任された役員を報告した。

(四) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月一五日、各支部から選任された旨の報告のあった代議員等に対し、本件定時総会の開催を通知した。

(五) 原告鳴井及び柴田は、五月一九日、被告行政書士会の選挙管理委員会に対し、本件選挙に当たっての所信等を記載した文書の届出をし、右選挙管理委員会は、同日、各支部から選任された旨の報告のあった代議員に対し、原告鳴井及び柴田の本件選挙に当たっての所信等が記載された会長選挙公報を送付した。

(六) 高谷正夫は、五月二六日、被告行政書士会の会長である被告中村に対し、同月二五日に開催された本件臨時総会において、原告大川の支部長不信任案が可決され、支部長として高谷正夫が選任された旨、代議員を改選し、佐々木英樹外六名が選任された旨等を報告した。

(七) 高谷正夫は、五月二六日、本件支部総会で選任された役員や代議員に対し、本件臨時総会において役員や代議員を解任した旨通知した。その解任通知書には、本件臨時総会の決議は被告行政書士会へ報告し承認済みである旨記載されていた。

(八) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月二六日、原告大川に対し、同日付けで高谷正夫から本件支部総会で選任された役員及び代議員を解任して新たに代議員等を選任し、原告大川から五月一二日付けで報告のあった代議員の選任は取り下げるとの報告があった旨の通知をした。

(九) 被告行政書士会の選挙管理委員会は、五月二六日、原告鳴井に対し、代議員の一部に変更があった旨連絡した。

(一〇) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月二六日、本件臨時総会で選任された代議員に対し、本件定時総会の開催を通知した。

(一一) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月二六日、原告大川等の本件支部総会で選任された代議員に対し、新支部長高谷正夫名で本件支部総会で選任された代議員が解任され併せて新たな代議員が選任されたとの報告があった旨の通知をした。

(一二) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月二七日、原告大川に対し、本件臨時総会において新たに代議員が選任された等として、電話で連絡した上、原告大川から提出されていた代議員名簿等を返却した。

(一三) 原告大川は、中弘支部の支部長として、五月二七日、被告行政書士会の会長である被告中村に対し、本件支部総会における決議の効力を認めないと同被告から口頭で連絡があったが、理由を明らかにした上で文書により通知するよう要求する文書を送付した。

(一四) 被告中村は、被告行政書士会の会長として、五月二九日、原告大川に対し、本件支部総会における決議の効力を認めない理由について、本件支部総会において新役員を決めたにもかかわらず、新役員において議案の審議をしなかったこと等から、本件支部総会は手続上無効である旨の五月二〇日付けの高谷正夫からの申告書が提出されていること、本件臨時総会において原告大川に対する不信任案が可決され、原告大川が支部長を解任されたこと等を記載した回答書を送付した。

(一五) 被告中村は、原告大川に対し、同原告から提出されていた代議員名簿等を返却し、本件支部総会で選任された代議員を中弘支部の代議員として認めない旨、本件臨時総会で選任された代議員を中弘支部の代議員として認める旨等の意向を示すに当たり、原告大川から事情聴取したり、本件臨時総会の有効性について調査したりすることなく、専ら高谷正夫からの報告によって判断していた。

(一六) 本件支部総会で選任された中弘支部の代議員七名は、会長候補として原告鳴井を支持していたところ、原告鳴井もそのことを認識していた。

(一七) 五月三〇日、本件定時総会が開催された。原告大川等の本件支部総会で選任された代議員五名は、オブザーバーとして席に着き、本件臨時総会で選任された代議員七名が中弘支部の代議員として席に着いた。

議長から、代議員数六九名に対し、本人出席六〇名、委任状出席八名の合計六八名が出席しているので、総会は有効に成立している旨の報告がされたところ、原告鳴井は、中弘支部の代議員について、事務局で閲覧した中弘支部の代議員名簿の者と代議員席に着いている者が異なっていること等から、総会の成立要件を欠いており、本件定時総会は成立していない旨の意見を述べた。これに対し、会長の被告中村は、本件支部総会について、議事に入る前に役員の総辞職が行われ、その後原告大川を支部長とする暫定役員が決められたが、この役員も総会開催までのものであるにもかかわらず、総会の提出案件の審議も監査もされないまま総会の議事を進めようとしたため、会員から、これでは総会は成立していないから、後日改めて総会を開催したらとの意見も出されたが無視され、総会の議事が進められ、そのような中で代議員が決められたこと、本件臨時総会について、高谷正夫らが発起人となり、適切な手続により本件臨時総会が開催され、原告大川の支部長不信任案が可決され原告大川が支部長を解任され、その後、新たに代議員等が選任されたと新たに選任された高谷正夫支部長から報告を受けたこと、これを受けて、他の中弘支部の会員数名からも事情を聴いた上で、本件支部総会で選任された代議員は無効であり、本件臨時総会で選任された者を中弘支部の代議員とし、関連文書を関係者に発送したことを説明した。その後、原告大川及び高谷正夫が意見を述べたところ、出席していた代議員の中から、本件定時総会は中弘支部の代議員として本件支部総会で選任された代議員と本件臨時総会で選任された代議員のどちらが有効なものか審議すべき会議ではないので、中弘支部が結論を出せないのであれば、どちらの議決権も認めるべきではない旨の意見が出され、両者について議決権を認めない旨賛成多数により決議され、両者はオブザーバーとされた。その結果、両者について、本件選挙の選挙権は認められないこととされた。

本件選挙において、原告鳴井は本件定時総会が成立していない旨の意見を述べたが、投票が行われ、その結果、投票総数五三票、有効投票総数五三票で、原告鳴井が八票、柴田が四五票を獲得して、柴田が被告行政書士会の会長に当選した。

原告鳴井は、本件選挙の際、所信を述べる予定であったが、中弘支部の代議員に関する問題があったことから、それについての意見を中心に発言した。

2 右認定の事実によると、本件選挙は、本件支部総会において有効に選任された中弘支部の代議員の選挙権が認められずに行われたものであり、本件選挙には手続上の瑕疵があるといわざるを得ない。

なお、本件定時総会においては、中弘支部の代議員について議論がされ、本件支部総会で選任された代議員と本件臨時総会で選任された代議員のどちらにも議決権を認めない旨賛成多数により決議され、両者はオブザーバー参加とされ、その結果、本件支部総会で選任された代議員の選挙権も認めないこととされたが、議決権や選挙権は、会議体の構成員が会議や選挙において自己の意見を反映させる重要な権利であるから、会議体の構成員による多数決によっても奪うことはできないと解され(議決権や選挙権を会議体の構成員による多数決によって奪うことができるとすると、多数派が少数派の意見表明の機会を奪うことができることになり、妥当ではない。)、本件定時総会においてされた、本件支部総会で選任された代議員と本件臨時総会で選任された代議員のどちらにも議決権を認めない旨の右決議は無効と解されるから、本件支部総会で選任された代議員の議決権及び選挙権が右決議により失われることにはならず、右決議により本件選挙の手続上の瑕疵が治癒されるとは解されない。

もっとも、本件のような組織の長を選ぶ選挙において手続上の瑕疵があった場合、組織の自律性や法的安定性等から、当然にその選挙が無効となるものではなく、手続上の瑕疵が重大であり、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に限り、選挙の効力が無効になると解すべきである(公職選挙法二〇五条一項参照)。

これを本件について見ると、本件選挙は、代議員数六九名のうち七名の代議員の選挙権が認められない状態で行われたものであり、手続上の瑕疵は必ずしも小さいとはいえないが、本件選挙の結果は、有効投票数五三票で、原告鳴井が八票、柴田が四五票と、柴田が有効投票数の大部分を獲得して被告行政書士会の会長に当選しており、原告鳴井が本件選挙の際に所信を述べずに中弘支部の代議員に関する問題を中心に発言したことを考慮しても、本件選挙に至るまでの選挙運動の状況、本件選挙の結果等から見て(本件支部総会で選任された代議員があらかじめ原告鳴井を支持していたように、代議員の多くは、原告鳴井や柴田の選挙活動等により、あらかじめ投票する者を決めていたと思われる。)、前記の手続上の瑕疵により、本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあったとまでは認められず、本件選挙の効力が無効になるとは認められない。

以上によると、本件選挙には手続上の瑕疵が認められるが、本件選挙の効力は有効であると解される。

よって、本件選挙の無効を求める原告鳴井の請求は、理由がない。

四  争点4(本件選挙において原告大川の選挙権を行使させなかったこと等についての被告らの不法行為責任の有無)について

1 会議体の構成員が有する議決権や選挙権は、会議体の構成員が会議や選挙において自己の意見を反映させる重要な権利であるから、それが法律等の規定により明確に定められている場合には、法的保護に値するものといえ、これらの権利を故意又は過失により侵害した者は、これらの権利を侵害された者に対して不法行為責任を負うと解すべきである。

2 これを本件について見ると、前記認定の事実(前記争いのない事実等も含む。)によると、被告行政書士会は、行政書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として、行政書士法一五条一項に基づいて設立された法人であり、その会則は、青森県知事の認可を受けているところ、会則やそれに基づいて定められている選任規則により、被告行政書士会の総会は、代議員で構成されること(会則三六条)、代議員は、総会前に支部会員が選任すること(会則四八条)、代議員の数は、支部会員五名に対し一名の割合で選任すること(会則四九条)、代議員は、一個の議決権を有すること(会則四一条)、会長は、選挙により選任すること(会則二九条一項、選任規則三条一号)、選挙権を行使できる者は、現に当該総会に出席している代議員とすること(選任規則四条)等が規定されており、右のように本件定時総会における議決権や選挙権が知事の認可を受けた会則やそれに基づいて定められている選任規則に具体的に規定されていることからすると、右の議決権や選挙権は、法的保護に値するものであると解される。

そして、前記認定の事実によると、原告大川は、本件支部総会において中弘支部の代議員として有効に選任され、本件定時総会における議決権や選挙権を有していたところ、被告中村は、被告行政書士会の会長として、本件臨時総会において代議員を改選した旨等の高谷正夫からの報告を受けて、原告大川に対して同原告から提出されていた代議員名簿を返却し、本件支部総会で選任された代議員を中弘支部の代議員として認めない旨の意向を示して原告大川の本件定時総会における議決権や選挙権を事実上行使できないようにしており、被告中村は、原告大川の右議決権や選挙権を侵害したというべきである。

そして、被告中村は、本件臨時総会が中弘支部の支部長でも副支部長でもない発起人代表らにより招集されており、その招集権限に疑問が持たれる状況にあったのであるから、原告大川に事情聴取したり、本件臨時総会の有効性について調査すべきであったにもかかわらず、そのようなことをせず、専ら高谷正夫からの報告に基づいて、右のように原告大川の本件定時総会における議決権や選挙権を侵害しており、そのことに少なくとも過失があるというべきである。

なお、本件定時総会において、中弘支部の代議員について議論がされ、本件支部総会で選任された代議員と本件臨時総会で選任された代議員のどちらにも議決権を認めない旨賛成多数により決議され、両者はオブザーバーとされ、その結果、本件支部総会で選任された代議員の選挙権も認めないこととされたが、原告大川の本件支部総会における議決権や選挙権は、被告中村からの代議員名簿の返却等により、本件支部総会の開催前に事実上侵害された状態にあったのであるから、本件定時総会における右のような事情により被告中村の不法行為責任が免れるものではないと解される。

また、被告中村は、被告行政書士会の会長としては、代議員について支部から提出される議事録等に従って処理するほかなく、代議員の選任の適法性について具体的に判断する立場になかった旨供述しているが、被告中村の本件定時総会前の対応や本件定時総会での発言等からすると、被告中村は、被告行政書士会の会長として、高谷正夫からの報告等により、中弘支部の代議員の選任の適法性について積極的に判断し、対応していたことがうかがわれるから、被告中村の右供述は採用できない。

したがって、被告中村は、原告大川に対し、本件定時総会における議決権や選挙権を侵害したことについて、不法行為責任を負う。

3 また、被告行政書士会は、行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づいて、会長(理事)であった被告中村と連帯して、原告大川に対して不法行為責任を負う。

4 原告大川の本件定時総会における議決権や選挙権が侵害されたことによる慰謝料としては、本件定時総会に至る経緯や原告大川が原告鳴井を支持していたこと等の本件に現われた一切の事情を考慮すると、五〇万円が相当である。

五  争点5(本件選挙に瑕疵がある場合に本件選挙において原告鳴井が正規の手続により選挙を受けることができなかったことについての被告らの不法行為責任の有無)について

1 組織の長を決める選挙においては、選挙の結果により当選の有無が決まるのであるから、立候補した者にとっても正規の手続により公正に選挙が実施されることが重要であり、選挙の手続について法律等の規定により明確に定められる場合には、それは立候補した者の利益のためにも規定されていると解されるから、組織の長を決める選挙に立候補した者は、正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を有すると解され、これを故意又は過失により侵害した者は、この利益を侵害された者に対して不法行為責任を負うと解すべきである。

2 これを本件について見ると、前記認定の事実によると、被告行政書士会の会長は、総会において、選挙により選任することとされており(会則二九条一項、選任規則三条一号)、会長の選挙の実施方法については、知事の認可を受けている会則に基づいて定められている選任規則及び施行細則に具体的に規定されていることからすると、被告行政書士会の会長の選挙に立候補した者は、正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を有すると解される。

そして、前記認定の事実によると、原告鳴井は、被告行政書士会の会長を決める本件選挙に立候補し、正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を有していたところ、本件支部総会で有効に選任された中弘支部の代議員七名が本件選挙の選挙権を有しており、原告鳴井を支持していたにもかかわらず、被告中村は、被告行政書士会の会長として、原告大川に対して同原告から提出されていた代議員名簿を返却し、本件支部総会で選任された代議員を中弘支部の代議員として認めない旨の意向を示して右代議員の本件選挙における選挙権を事実上行使できないようにし、その結果、原告鳴井は、本件支部総会で選任された中弘支部の代議員の選挙権が被告中村により事実上侵害された状態で本件選挙に臨むことになり、被告中村により正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を侵害されたといえる。

そして、被告中村は、本件支部総会で選任された中弘支部の代議員の選挙権を事実上行使できないようにするに当たり、前記四2のとおり、原告大川に事情聴取したり、本件臨時総会の有効性について調査すべきであったにもかかわらず、そのようなことをせず、専ら高谷正夫からの報告に基づいて、中弘支部の代議員の選挙権を事実上行使できないようにしており、被告中村は、原告鳴井の正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を侵害するに当たり、少なくとも過失があるというべきである。

したがって、被告中村は、原告鳴井に対し、本件選挙において正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を侵害したことについて、不法行為責任を負う。

3 また、被告行政書士会は、行政書士法一五条四項の準用する民法四四条一項に基づいて、会長(理事)であった被告中村と連帯して、原告鳴井に対して不法行為責任を負う。

4 原告鳴井の本件選挙において正規の手続により選挙を受ける法的保護に値する利益を侵害されたことによる慰謝料としては、本件支部総会で選任された中弘支部の代議員が原告鳴井を支持していたことや本件選挙の際の状況等の本件に現われた一切の事情を考慮すると、五〇万円が相当である。

六  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 北川 清)

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